■説明
■治療法
主文
1 原告の請求を棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
中央労働委員会(以下「中労委」という。)が中労委平成18年(不再)第46号事件について平成19年7月18日付けでした命令を取り消す。第2 事案の概要
原告は,東陽印刷株式会社(以下「会社」という。)が,1組合を排除するために計画的に廃業及び破産手続開始の申立てを行い組合員を解雇したこと,2廃業及び破産手続開始の申立てについて組合と事前協議をしなかったこと,3廃業及び解雇をめぐる組合との4回の団体交渉において不誠実な対応をし,その後の団体交渉に応じなかったことは,いずれも不当労働行為(1及び2につき労働組合法7条1号及び3号,3につき同条2号所定のもの)に当たるとして,群馬県労働委員会(以下「群馬県労委」という。)に対し,会社及び破産者東陽印刷株式会社破産管財人矢田健一(以下「矢田破産管財人」という。)を被申立人として救済を申し立てた(群馬県労委平成17年(不)第3号不当労働行為救済申立事件。以下「本件初審申立て」という。)。原告が求めた救済の内容は,1平成17年6月30日付けでされた会社の廃業の撤回,2同日付けでされた組合員の解雇撤回,3謝罪文の掲示である。
群馬県労委は,平成18年7月6日,別紙1のとおり,会社に対する申立ては,現実に会社を代表して行為を行う者がいない以上,救済命令を実行することが事実上不可能であるとしてこれを却下し,矢田破産管財人に対する申立ては,同人の責任として,組合に対応すべき事項は存在しないなどとしてこれを棄却する命令(以下「初審命令」という。)を発したため,原告は,中労委に対し,再審査を申し立てた。
中労委は,平成19年7月18日,別紙2のとおり,会社に対する申立ては,会社の破産手続が終了し,会社財産の清算も完了しているので,会社が法令上も事実上も存在しないことにより,また,矢田破産管財人に対する申立ては,破産手続の終了で同人の任務が終了したことにより,いずれも救済命令を実現することが法令上及び事実上不可能であるとして,前者については再審査申立てを棄却し,後者については初審命令を取り消した上,救済申立てを却下する旨の命令を発した(以下「本件命令」という。)。
本件は,これを不服とする原告が,本件命令の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等
ア 会社は,平成6年2月14日に設立された,群馬県前橋市内に本店を置き,印刷業並びに製版業及び製本業等を目的とする株式会社であり,資本金は1000万円で,代表取締役はP1であった(乙A1,6)。
イ 会社は,後記(2)のとおり,平成17年8月5日,前橋地方裁判所において,破産手続開始決定を受け(前橋地方裁判所平成17年(フ)第525号),その破産管財人として弁護士である矢田破産管財人が選任された。
ウ 原告は,平成5年10月21日に朝陽堂印刷労働組合として結成され,平成6年に現在の名称に改称し,会社の廃業当時の従業員10名のうち3名から成る労働組合であり,代表者はP2である。
(2) 本件破産手続
会社は,平成17年7月27日,前橋地方裁判所に対し,破産手続開始を申し立て,同裁判所は,同年8月5日,会社が支払不能の状態にあることを認め,破産手続開始決定をした。
その後,矢田破産管財人は,破産財団に属する財産の管理に着手して,破産財団の換価等を終了し,財団債権の弁済を行った上で,破産手続の廃止を申し立て,前橋地方裁判所は,平成18年9月20日,破産手続廃止決定をした(乙Bロ7)。
上記破産手続廃止決定に対し,会社に対して労働債権を有するP2は,会社の破産は偽装されたものである旨主張し,東京高等裁判所に対し,即時抗告を申し立てたが,平成19年3月30日,同裁判所はこれを棄却し,同年4月10日,会社の破産手続廃止決定は確定した。
2 争点
原告が求める救済内容(1会社の廃業の撤回,2組合員の解雇撤回,3謝罪文の掲示)の実現可能性
3 争点に関する当事者の主張
【原告の主張】
P1は,原告を嫌悪し,組合員を排除するために,会社を偽装破産させたものである。
すなわち,P1は,不当労働行為意思に基づき,会社の売上げを,監査役のP3が経営するペーパー会社の株式会社P4(以下「P4」という。)へ付け替えるなどして会社を経営不振に陥らせた上,売掛金の回収を行い,資金が潤沢で手形不渡りも出ていない時期に,顧客に対し売上金の振込先をそれまでの当座預金口座から会社の普通預金口座に変更するよう指示したり,必要もないのに会社の借入金や買掛金を弁済したりして,意図的に会社の廃業及び破産を推進する一方,会社の顧客や業務に関する情報等を私物化し,平成17年5月にはP4の取締役に就任して,会社の事業及び役員をP4に承継させた。
このように,会社が行った不当労働行為は明白であり,原告が求める1会社の廃業の撤回,2組合員の解雇撤回,3謝罪文の掲示の各救済を実現することは不可欠である。
P1,P3,会社の取締役P5及び同P6の4名が協力すれば,上記救済内容を実現することは可能であることから,これを不可能であるとして原告の救済申立てを却下した本件命令は取り消されるべきである。
【被告の主張】
本件命令は,労働組合法25条,27条の17及び27条の12並びに労働委員会規則55条,56条及び33条の規定に基づき適法に発せられた行政処分であり,処分の理由は命令書理由記載のとおりであり,中労委の認定した事実及び判断に誤りはない。
会社に関する破産手続は終了し,会社は法令上も事実上も存在しなくなっている上,矢田管財人の任務も終了している。
原告の請求する救済の内容は法令上も事実上も実現することが不可能であることは明らかである。
また,原告は,会社の役員であったP1,P3,P5及びP6が協力すれば原告が求める救済内容は実現可能である旨主張するが,P1らはいずれも本件申立てにおいて被申立人となっていないのであるから,原告の主張は失当である。
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第3 当裁判所の判断
1 認定事実前記第2の1の前提となる事実に加えて,証拠(甲1,乙A14,615,1719,2126,乙Bイ46,8,13,20,乙Bロ1,2,47,乙C14。
ただし,乙C14については,後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認定することができる。
(1) 本件破産手続に至る経緯
ア 会社設立以降の経営状況
(ア) P1は,平成6年2月14日,設立資金の大部分を出資するとともに,自ら代表取締役となって,会社(東陽印刷株式会社)を設立した。
P1以外の役員としては,工場長であったP6及びP1の長女のP5が取締役,P1の友人のP3が監査役をそれぞれ務め,会社の株式は,P1が90パーセント,P3が5パーセント,P6が5パーセントをそれぞれ保有していた。
(イ) 会社は,設立当初は順調に経営を続け,平成10年には売上げが約2億6000万円に達したが,その後,印刷業界における需要の低下により競争が激化し,売上げが低迷するとともに金融機関からの借入れが増大して,平成13年ころには,いわゆる自転車操業の状態に陥った。
平成11年8月から平成16年7月までの総売上高,利益及び損失の状況は以下のとおりである。
第7期(平成11年8月1日から平成12年7月31日まで)
総売上高 221,383,149円
経常損失 418,596円
前期繰越利益 5,461,997円
当期未処分利益 4,863,501円
第8期(平成12年8月1日から平成13年7月31日まで)
総売上高 168,022,675円
経常損失 15,957,007円
前期繰越利益 4,863,501円
当期未処理損失 7,983,098円
第9期(平成13年8月1日から平成14年7月31日まで)
総売上高 138,203,888円
経常損失 16,953,836円
前期繰越損失 7,983,098円
当期未処理損失 24,763,452円
第10期(平成14年8月1日から平成15年7月31日まで)
総売上高 127,816,820円
経常損失 8,668,334円
前期繰越損失 24,763,452円
当期未処理損失 33,526,575円
第11期(平成15年8月1日から平成16年7月31日まで)
総売上高 116,928,675円
経常損失 4,323,797円
前期繰越損失 33,526,575円
当期未処理損失 38,123,246円
(ウ) P1は,このような会社の経営状況の悪化に際し,従業員の理解と協力を求めるため,従業員に対し,朝礼の場で業績悪化について説明をしていたほか,組合に対しても,団体交渉において,売上げや経費の推移に関する試算表を交付するなどしていた。
しかし,その後も業績は好転せず,平成15年ころになると,従業員の給与の遅配が発生し,会社はこれを分割で支払うようになった。
(エ) さらに,会社は,平成17年3月ころから資金調達に行き詰まり,同年3月ないし4月ころには,取引銀行から債務の返済を迫られるようになったほか,同年4月には,当座預金口座を閉鎖する可能性があるとの連絡を受けて,複数の取引先に対し,会社に対する支払の振込先を当座預金口座から普通預金口座に変更するよう依頼したこともあった。
(オ) また,会社は,平成17年6月20日,銀行から,会社が振り出した220万円の手形が不渡りになるとの連絡を受け,その翌日である同月21日の午前中に第三者に手形の買戻しをしてもらい,辛うじて不渡りを免れた。
イ P1の廃業準備等
(ア) P1は,遅くとも平成17年5月ころには,会社を廃業することなどを考えるようになったところ,顧客の迷惑を慮り,長年取引関係にあって,会社の監査役のP3が代表取締役を務めているP4に顧客との取引を引き継がせることを考えた。
(イ) P4は,昭和60年に設立された,群馬県前橋市内に本店を置く,印刷物の企画,デザインの制作販売等を目的とする株式会社である。
同社は,印刷機械を保有して実際に印刷業を行うことはなかったが,受注した仕事を他社に下請けに出しており,従前から,会社でも,依頼を受けた仕事のうち,料金等の問題から自社で印刷を行わない分について,P4を経由して他の印刷会社に印刷を依頼していた。
(ウ) P1は,平成17年5月中旬ころ,P4の社名及び本店所在地等を記載した自己の名刺の版下を作成し,同年7月1日には,同人の同年5月31日付けP4の取締役就任の登記がされた。
なお,その後,矢田破産管財人の指導もあり,P1についてP4の取締役の解任の登記がされた。
(エ) P1は,平成17年6月21日,中古印刷機械の販売業者に対し,会社の所有する印刷機類を441万円で売却し,同月25日及び26日,会社からそれらを搬出した。
(オ) P1は,印刷機類の売却代金を,従業員に対する未払賃金の精算,解雇予告手当の支払及び破産手続費用に充て,後記(2)アの破産手続開始決定申立時には,退職金が全額未払であるほかは,賃金及び解雇予告手当の未払はなくなっていた。
(カ) P1は,平成17年6月,会社の銀行預金から,自己並びに自己の親族及び知人に対する会社の債務数百万円を弁済した。
ウ 廃業の実行
(ア) P1は,以上の廃業準備について,債権者等にその情報が伝わり,取付け騒ぎが起こることなどを懸念して,従業員には全く知らせていなかったが,前記イ(エ)の機械の搬出をP2らに見とがめられ,平成17年6月27日の朝礼において,従業員に対し,「6月30日を以って廃業いたします。
依って社員は全員解雇します。」などと記載した通知を配布した。
(イ) P1は,平成17年6月30日付けで,取引先に対し,会社の廃業と,原版その他一切の物は株式会社P4が引き継いでいることを記載した書面を交付し,顧客から預かっていた印刷原版の多くを顧客に返還するとともに,取引の継続を希望した少数の顧客については,原版をP4に引き継ぎ,引き続き,P4を通じて他の印刷会社に印刷を発注できる態勢を整えた。
P4は,その後,会社の元顧客との取引を行っていた。
(ウ) なお,P1は,P4から一切報酬等を受けておらず,取締役を解任された後は,同社に関与していない。
(2) 会社及びP1の破産手続
ア 会社は,平成17年7月27日,前橋地方裁判所に対し,破産手続開始を申し立て,同裁判所は,同年8月5日,会社が支払不能の状態にあることを認め,破産手続開始の決定を行い,破産管財人として矢田破産管財人を選任した。
会社の破産手続申立て当時に判明していた破産債権者は28名,破産債権額は約9440万円に上った。
また,同裁判所は,P1についても,同年9月14日,同人が支払不能の状態にあることを認め,破産手続開始の決定をした。
イ 矢田破産管財人は,破産財団に属する財産の管理に着手して,財産目録等,破産者及び破産財団に関する経過並びに現状等について記載した報告書を作成し,裁判所に提出するとともに,4回にわたる債権者集会期日においてその内容を報告したほか,前記(1)イ(カ)のP1の親族等に対する否認権行使に基づく弁済金返還請求の各訴えを提起して,その和解金を破産財団に組み入れ,破産財団に属する財産の換価を終了するなどした。
そして,平成18年9月19日までに,従業員らに対する退職金や破産管財人への報酬等の財団債権の弁済が行われ,その結果,破産財団の残高は0円となった。
ウ 前橋地方裁判所は,平成18年9月20日の第4回債権者集会において,破産手続を廃止するか否かの意見を聴取した上,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認め,同日,破産手続廃止の決定をした。
また,矢田破産管財人は,上記債権者集会において,任務終了による計算報告を行った。
上記破産手続廃止決定に対し,会社に対する労働債権を有するP2は,会社の破産は偽装されたものであると主張し,東京高等裁判所に対し,即時抗告を申し立てたが,平成19年3月30日,同裁判所はこれを棄却し,同年4月10日,破産手続廃止決定は確定した。
(3) 会社と組合との団体交渉
ア 会社と組合とは,平成17年7月1日,同月6日及び同月12日,会社廃業後の第1回ないし第3回の団体交渉を開催した。
イ 会社と組合とは,平成17年7月19日,会社廃業後の第4回団体交渉を行った。
その中で,会社は,廃業は業績悪化によるものであることを説明した上,組合の申し入れた次回の団体交渉には応じない旨言明した。
ウ その後,組合は,一時金,年1回の定期昇給相当分賃金,時間外手当,未消化の有給休暇の日数相当分賃金の支払要求等を交渉事項とする団体交渉を申し入れたが,団体交渉が行われることはなかった。
2 争点について
(1) 原告は,会社による廃業等が不当労働行為に当たるとし,会社及び矢田破産管財人を被申立人として,1平成17年6月30日付けでされた会社の廃業の撤回,2同日付けでされた組合員の解雇撤回,3謝罪文の掲示を求め,会社役員のP1,P7,P5及びP6が協力すれば,これらを実現することは可能である旨主張する。
(2) 会社の廃業の撤回(1)及び組合員の解雇撤回(2)について株式会社は,破産手続開始決定により解散するが(平成17年法律第87号による改正前の商法404条1項,94条5号),破産手続による清算の目的の範囲内において,破産手続が終了するまで存続するものとみなされる(破産法35条)。
そして,異時破産手続廃止決定がされると,同決定の確定により,破産手続は終了するが,開始決定による解散の効果は継続するため,破産手続終了後も,清算事務を要する場合には,清算会社として,清算の目的の範囲内において,清算が結了するまで存続するものとみなされる(上記改正前の商法430条1項,116条)。
これを本件についてみると,前記1(2)アないしウのとおり,会社は,平成17年8月5日に破産手続開始決定を受けた後,矢田破産管財人により財団債権の弁済等が行われ,破産財団の残高が0円となったことにより,平成18年9月20日に破産手続廃止決定を受け,同日の第4回債権者集会において,矢田破産管財人が任務終了による計算報告を行ったものである。
そして,P2の申し立てた破産手続廃止決定に対する東京高等裁判所への即時抗告は,平成19年3月30日棄却され,同年4月10日,同決定は確定したのであって,これにより,会社の破産手続は終了している。
もっとも,会社は,破産廃止決定確定前の平成17年12月13日,原告によって不当労働行為救済命令申立ての被申立人とされ,以後,現在に至るまで,救済命令申立手続,その再審査手続,更に本件取消訴訟手続という一連の手続が進行しているのであるから,上記各手続の終了するまでの間は清算事務は終了しておらず,会社の法人格は存続しているというべきである。
しかし,この場合,会社は,破産手続開始決定の効果により,清算会社として存続しているにすぎないのであるから,その権利能力は,上記のとおり清算の目的の範囲内に限定されるのであって,解散前に行っていた事業を再開し遂行することは,清算の目的の範囲を逸脱するものであって,法律上不可能である。
したがって,原告の求める救済のうち,会社の廃業の撤回(1)及び組合員の解雇撤回(2)は,会社及び矢田破産管財人のいずれにおいても,法令上実現することが不可能であることが明らかであるといえる。
(3) 謝罪文の掲示(3)について
原告の求める救済のうち,会社による謝罪文の掲示を求める部分(3)についてみると,この救済の実行は会社の清算事務に該当するとみる余地があることから,必ずしもこれが法令上不可能であるとはいえない。
しかしながら,会社の代表取締役であるP1は,前記1(2)アのとおり破産手続開始決定を受けていることから,平成17年法律第87号による改正前の商法254条の2第2号の取締役の欠格事由に該当することにより,当然に代表取締役の地位を喪失したものと認められるところ,その後会社において改めて代表取締役が選任されたことを窺わせる事情は認められない。
したがって,原告の求める上記救済は,現実に救済命令を実行すべき代表取締役が存在しない以上,事実上実現することが不可能であることが明らかというべきである。
また,矢田破産管財人による謝罪文の掲示を求める部分(3)についてみると,前記(2)のとおり,会社についての破産手続は終了し,矢田破産管財人の任務は既に終了したものであって,同人が会社の破産管財人としての立場で謝罪文を掲示することは,法令上実現することが不可能であることが明らかである。
3 結論
以上によれば,原告の求める救済の内容は法令上又は事実上実現することが不可能であることが明らかである(労働委員会規則33条1項6号)から,不当労働行為の成否について判断するまでもなく,本件命令は適法であり,その取消しを求める原告の本件請求には理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
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